風姿花伝から芸を学ぶ

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今回は、書評です。
ものづくりの上で、時にそれ以外でも参考にしている本、『風姿花伝』を紹介します。

この本は室町時代の能役者、世阿弥の書いた「芸」についての本です。
漫画やイラストなど広いジャンルで、「芸」を始めて3年ぐらい経った人に特におすすめです。

本書について

といっても古文は難しいので、現代語訳を読んでほしいです。
僕が読んだのは『すらすら読める風姿花伝』林望・講談社です。

すらすら読める風姿花伝

原文も載せつつ、訳と解説がついて分かりやすいです。
芸の分かる方が訳者なので、まず間違いないです。

世阿弥の言葉から

この本は難しい芸術論ではなく、むしろ芸術とは違う「芸」は、何を目指すべきかを書いています。

なので、身分の低い客の前なら、自分がうまくても、その低さに合わせてわかりやすく演じなさい、などと言ったりします。

どこまでも現実的で冷静な視点からくる言葉は、能の演技論を越えて、他の芸能や、ビジネスにも通ずるところがあります。

例えば、

秘すれば花なり、秘せずは花なるべからず。

引用元:『風姿花伝』世阿弥

これは「秘密にする」こと自体に大きな働きがあるという意味です。

秘事というのは、知れば大抵なんでもないことだから、見せるより、隠す方が有利だということです。

タネを明かしたところで何も面白くはならないし、自分が損するだけ。
だったら「秘する」方が良いというのは、様々な立場で言えることだと思います。


他にも優れた言葉があります。

上手は下手の手本、下手は上手の手本なり。

引用元:『風姿花伝』世阿弥

これは、下手な者でも良いところはあって、それを上級者が学ばないというのなら、それは、その程度の上手な者だと説明しています。

日頃僕も、優秀だけど欠点が目につく人って、どう理解したらいいんだろうと思っていましたが、世阿弥からするとそれは「その程度の人」ということのようです。

目指すのは、その程度ではなく、常に誰からも学びとる姿勢だと言われたようで、なんだか安心しました。


あと「初心忘るべからず」も世阿弥の言葉ですが、それは別の本『花鏡』に書いてあるそうです。
僕もこの言葉の真意は、これから勉強します。

芸とは何か

この本では「(芸によって)見る人に感興を起こさせること」を「花」に例えています。
その花を伝える書ということで『花伝』です。

春の花、夏の花と、季節ごとに色々の花を見て楽しむように、芸もまたその時期ごとに面白いと思うものが変化する。

だから、一つの芸だけじゃダメで、数々の「花」を持ち、その時々の必要で取り出せるように鍛錬すべきだと、世阿弥は言います。

「花」はその時その時の見ている人の中にあるものかもしれない、とも言っています。

600年前の本ですが、「芸」が普遍的に目指すところを、しっかり言い当てていると思います。

まとめ

時代を超えて考えさせられる言葉が、他にも幾つも出てきます。
拙い文ですが、少しでも興味を持つ人が生まれたら名著に恩返しできた気がします。

最後に、僕が大事にしている一文を紹介します。

稽古は強かれ、情識はなかれ

引用元:『風姿花伝』世阿弥

稽古はし過ぎることはない(思う存分やっていい)、だが、うぬぼれの心は無くすべきだ。